2020年2月29日(土)

第25回「痛いのはイヤだけど...~危険から身を守る痛みの神経回路~」

話し手:八坂敏一さん(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)

開催場所: Corda espresso/bar

参加人数:  19名

 今回は、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の八坂敏一さんに痛みの神経回路についてお話して頂きました。世の中には、頭痛、腰痛、歯痛..様々な痛みがあります。タイトルにあるように誰しも痛みはイヤで避けたいもの。しかし、痛みが無いと大変なことになってしまうというのが最初のお話でした。無汗無痛症と呼ばれるご病気の患者さんは、痛みを感じないため、熱々のホットプレートにも何も感じず、ずっと手を置いておくことができます。しかし、当然、手を火傷してしまいます。また、足をぶつけたりしても何も感じないため、関節が壊れて固まってしまうことがあるそうです。こう考えると、痛みって、できれば避けたいけど、やはり重要なんですね。

 痛みの受容というのは、分子レベルでは、神経の細胞膜にあるTRPV1と呼ばれるチャネル(イオンを通す穴)に認識されます。TRPV1は、トウガラシの辛味成分カプサイシンの受容体であり、興味深いことに、高温を感じる受容体でもあります。だから、トウガラシを食べると痛みと熱さを感じるのですね。今回は、これを体感してもらうために、参加者の方に、お湯を飲んでトウガラシを食べてまたお湯を飲むと、食べる前に比べて、食べた後では、お湯の温度が高く感じるという実験をしてもらいました。カプサイシンがTRPV1チャネルを相乗的に強く活性化することで、お湯の温度が高く感じられるそうです。

 八坂さんは、特に脊髄における痛みの神経回路の研究をしていて、背骨の中にある神経の塊、脊髄は、輪切りにすると、いくつかの層に分かれているそうです(ある手法によって違う種類の神経を染め分けると写真のスライドのように分かれます。美しい...)。上から数えて2層目が特に痛みと密接に関わっている層で、そこには様々な種類の神経細胞が存在しています。神経には、大きく分けて、神経活動を抑制する神経と活性化する神経があって、それが回路を形成し、それらのon offにより、様々な刺激の情報伝達が制御されているそうです。皆さんは、手を机にぶつけた時、そこを擦ると、痛みが和らぐのを体験したことはありませんか?じつは、これは、この第2層にある神経回路のゲートコントロール説によって、説明できるそうです。ゲートコントロール説というのは、触覚を伝えるAβ線維という神経線維の活性化で抑制性介在(SG)神経を介して痛みを伝えるAδ/c線維を抑制するという説です。つまり、この説によると触覚が痛みを制御していることになります。このSG神経の活性が低下してしまうと、逆に、触覚が痛みの神経線維を活性化してしまい、ちょっと触れただけで痛いと感じるアロデニアという病気になってしまうそうです。八坂さんは、このアロデニアや痛みの制御に関係する神経回路図を描くため日夜研究に取り組まれているそうです。

 八坂さんの話の後、参加者の中にアロデニアのような疼痛に苦しんでいた方がいらっしゃっていて、自分が体験した痛みの仕組みが分かってとても良かったと言って下さりました。このような光景に出会うとサイエンスカフェをやっていてよかったと思います。参加して下さった皆さん、どうもありがとうございました!